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子供の世界の人間関係をあぶり出す-『世界地図の下書き』を読んだ

桐島、部活やめるってよ」そして「何者」で人気の朝井リョウの最新作、「世界地図の下書き」を読んだので読書感想。最近注目している作家さんだったので、読んでた本に割り込ませて読んでみた。

世界地図の下書き

世界地図の下書き

あらすじ

 突然の事故で両親を亡くし、「青葉おひさまの家」で暮らすことになった小学生の太輔。かなしみでしばらく心を閉ざしていたが、同じ部屋の仲間達のおかげで少しずつ打ち解けてゆく。とくにお母さんのように優しい高校生の佐緒里は、みんなにとって特別な存在。施設を卒業する佐緒里のため、4人の子供達は、ランタンに願い事を託して空に飛ばす「蛍祭り」を復活させようと、作戦を立てはじめる。

 

 この小説の中心線のひとつになっている「蛍祭り」っていうのは、新潟県津南町で開催されているお祭り、津南雪祭りがモチーフになっているみたいです。動画で見てもらえば わかる通り、非常に美しいです。


20130330津南町スカイランタン「幻想蛍(ゆめほたる)」リベンジ打ち上げ成功! - YouTube

  今回読んでいてまず気になったの三人称で書かれていること。今まで一人称中心で書かれていた(自分が思っているだけ?)作家さんだったので、どこか熱くならない、冷静さがあり続けるなと思っていたが、それが逆に物語性、ストーリー性、フィクション性を感じさせていて、あえて狙ったのかなと思ったり。あとは、メインの登場人物が5人の子供達なので、しゃべり方で上手く差別化しても会話パートがどうしても誰が話してるのかがわかりにくくなる。そのために三人称にしたのかな、など想像しました。主人公の太輔の話はどうしても一人称っぽい描写になってしまうので少し混乱しちゃうかも?

 

 本作も朝井さんらしい透明感がある文章が満載。引用すると、

環境描写

○テーブルの上に布を置くと、ぶわっと風が起こる。(P.22)

心理描写

○心臓の周りの血液だけが、ぼこっと沸騰した気がした。 また、体じゅうに力が入る。気づかれている。気づかれていない。気づかれている、の方向に、意識のかたまりがごそっと動く。(P.31)

○好き、という言葉は、太輔の耳の中でしゅわしゅわ弾けた。(P.78)

  また、心をえぐるような描写も健在だ。

○二人がいなくなる直前の記憶。磨り減りそうになるたびに、無理やり思い出して、もう一度塗固めて行く。(中略) 思い出す。声を、会話を、温度を、あの家を、表情を、話し方を、目を、指を、一つも残さず、必死に。(P.29)

 

 舞台が児童養護施設ということもあり、それぞれの登場人物たちは皆悩みを、想いを抱えています。大まかに、太輔・佐緒里・美保子は家庭に、そして淳也・麻利は学校でのいじめに。7/14に放送された情熱大陸で今回のテーマの一つは「昨今ニュースで話題になっている子供たちのイジメ」だと朝井自身語っている。後半のクライマックスにある佐緒里の台詞、これに 「世界地図の下書き」で朝井が言いたかったことが詰まっていると感じた。

「いじめられたら逃げればいい。笑われたら、笑わない人を探しに行けばいい。うまくいかないって思ったら、その相手がほんとうの家族だったとしても、離れればいい。そのとき誰かに、逃げたって笑われてもいいの。」

「逃げた先にも、同じだけの希望があるはずだもん」(P.321)

 情熱大陸動画はこちらを。

http://video.fc2.com/content/情熱大陸%202013-07-14%20作家%20朝井リョウ/20130714Tv67tVFn/&tk=TVRBME9UazVPRGM9

 

  たしかに子供を中心にまわる小説だが、「逃げればいい」これって大人の社会でも十分に当てはまると思う。最近話題のブラック企業だってこれに当てはまるだろう。最後の最後で、コロンブスの卵な展開は「何者」でも描かれていて、読者をハッとさせる著者の大きな魅力だと感じた。次回作にも期待です。