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書評 銃・病原菌・鉄/ジャレド・ダイヤモンド

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洋風の椅子に机、流れているのはジャズ、広々とした店内、そして客はその全員が洋服を身にまとっている。そんなよくあるシアトル系カフェにいる。こうしてみると我々の周りはほとんどが西洋の文化で占められていることがわかる。私たちは今や食生活すらハンバーグにスパゲティと、日本にいることを感じさせてくれるものは人種、言語、文字、そして僅かな和食とブランド化した伝統工芸位だろうか。
 
どうして現在の世の中がここまで西洋文化中心になったのか。ヨーロッパ人が人種として優れているからだろうか、アングロサクソン人が長期的な計画をたてることに優れているからだろうか。
 
本書はこの問いに対して否ということを豊富なデータとわかりやすい解説とともに説いている。物語の初めは1532年、スペイン人がインカ帝国を征服したところから始まる。この出来事は分断されていた二大陸の文化、文明が初めて衝突した出来事だ。スペイン人が勝てた直接的な原因はスペイン人が銃を持っていたこと、優れた鉄製武器を持っていたこと、そしてスペイン人が持ち込んだ病原菌に新大陸の人々が免疫を持ち合わせていなかったことだ。しかし筆者はさらに根源的な原因は何かを考察する。つまりそもそもここまで文化、文明度の差が出来た究極の原因は何かということだ。
 
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本書は数年前に書店の店頭にたくさん並べてあって気になっていたのだが、その厚さと値段に手が出ず忘れていたところ…先日ある方に貸して頂けることになり読み始めた。ところこれがとても面白いもので一件科学的、専門的な本ではあるが教養書として前提知識ぐなくとも十分読むことが出来るものだった。著者のジャレド・ダイヤモンド氏は医学、進化生物学、分子生物学、生物地理学、考古学、人類学、言語学などにとても精通しているようで、多彩なそして多岐に渡る視点から考察を加えている。ここが読みどころの一つである。
 
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本書の上巻は主に自然的要因によって人間集団にどんな差が出来たかを検証する。著者の言う最も究極の要因は大陸が東西に長いか、南北に長いかである。さらにこの要因により古代人が食用として得られた植物種や家畜の差が生まれた。さらに食料の生産能力が人口の増加に大きな影響を及ぼしたことを示している。
 
下巻では文化的要因に言及する。人類がどうやって文字を作ることができたのか、多くの発明がどうやって生まれてきたのかだ。そしてこれらの創造には多くの人口を持つ社会形態である”国家”が誕生する必要があったことを示す。国家ができるためには多くの人を養わなければならず食料生産能力が重要だった。
 
このように地理的、自然的要因が発明の発生、発達の可能性を上げ、これらのファクターに関してヨーロッパが他の地域に比べて一歩リードすることが出来たことを示す。我々の現在の地域差、文化差は決して人種の優劣で決まっているわけではないのだ。
 
本書は人類13000年の歴史を駆け足で、そしてわかりやすく紐解いた良書である。多くの人の知的好奇心を満たすこと請負である。古代から近世の人類の試行錯誤や苦難に想いを馳せ、現在の生活に息づいているその片鱗を知ることで世界がより鮮やかに見えてくることだろう。

 

 

 

文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)