Signal

Books, music, thinking and so on.

【書評】タイニー・タイニー・ハッピー/飛鳥井千砂

 

 はじめに

 飛鳥井さんの小説を読むのは今回で三作目。一つ目が夏に読んだ「学校のセンセイ」、もう一つが秋に読んだ処女作の「春がいったら」でした。

学校のセンセイ (ポプラ文庫)

学校のセンセイ (ポプラ文庫)

 

 

はるがいったら (集英社文庫)

はるがいったら (集英社文庫)

 

  小説すばる新人賞出身の作家らしい透明感のある人間劇、そして醸し出す日常系の空気は勿論この作家の良さの一つではあるけれど、注目したいところは飛鳥井さんの作品に出てくる登場人物の多さだ。タイニータイニーハッピーでは上記二作に比べても登場人物が多く、その数総勢15人以上。

 

ストーリー

 本作「タイニー・タイニー・ハッピー」は作品名にもなっているショッピングセンターであるタイニー・タイニー・ハッピー、略して「タイハピ」を中心にした群像劇だ。ちなみにこのタイトルは ”小さい 小さい 幸せ” という意味で、作中終盤でこの名前も関わる憎い演出がある(これがまたいい!)。主に20代を中心とした男女のそれぞれのストーリーが各々の語りで8つの物語を構成している。夫婦間の悩み、遠距離恋愛の困難、人間関係の複雑さ…各ストーリーは日常的なテーマではあるけれど、その中の物語の構成は良質な短編としても十分に読み応えのあるものだった。

 多くの登場人物はそれぞれの個性が光っているところも読み応えがある。これだけの人数に個性を持たせられる作家の筆力と経験、人間観察力は見習いたいところ。

 

ちなみに角川書店のホームページに特設ページも作られている。

タイニー・タイニー・ハッピー | 飛鳥井千砂

 

終わりに

 今回は文庫版を読んだのだけれど、北上次郎さんが寄せている解説も是非読んで欲しい文章である。作家の傾向、歴史、読みどころが非常にわかりやすく解説されている。次に読むとすれば「アシンメトリー」にしようか。

アシンメトリー (角川文庫)

アシンメトリー (角川文庫)