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【書評】生活保護-知られざる恐怖の現場/今野晴貴

生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書)

生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書)

概要

 「ブラック企業-日本を食いつぶす妖怪」などで最近ぼくが注目している社会学者の今野晴貴さんの新刊が出ていたので読んでみた。生活保護関連の話題と言えば「生活保護の不正受給」からの「不正受給バッシング」というイメージが強いけれど、本書は生活保護の実体、どんな人が受給されていて、その現場ではどういうことが起きているかということに焦点をあてているのが特徴だ。

 

生活保護の実体1

 本書の中から、多くの人に知っていただきたいことをいくつかピックアップする。上でも述べたように、昨今の生活保護事情は不正受給のバッシングに焦点があてられがちだけれど、その裏で本当に貧困で困っている人々が受給されずにいるという現実がある。不正受給がされているのは生活保護受給者の中の2%程に過ぎない。しかし、生活保護を受けるためには、財産と呼べるものの処分、親族など周りからの蔑むような目など多くの障害を乗り越えなくては成らない。

 

生活保護の実体2

 保護バッシング、さらに生活保護予算を減らすための行政の対応で様々な事件が起きている。保護を受けられないことで、就活などの生活の改善ができず、餓死、孤独死してしまう事件が相次いでいるのだ。このような実例が本書にはいくつも載っている。どれもが読んでいて涙してしまう内容だ。生活保護の目的は「国民が死なないようにすること」そして「生活の立て直しを支援すること」の2つあると初めて知った。しかし現実には「国民が死なないようにすること」だけだと思っている人々が多いと思う。

 

長期的な目線で見れない日本人

 少し話はそれるが、最近のニュースなどを見ていると、多くの人が、本当に目の前のこと、直近の1、2年のことしか考えず、20年30年スパンで物を見れていないなと感じる。先の大戦中の日本とアメリカを見ていて同じことを思うので、これは国民的資質なのかもしれないが…。先日の読売新聞にこのような記事が載っていた。『女性の社会進出保証と産休保護が将来的な人口減少を抑え、そして働ける年齢層の人口を増やして、これからも社会保障を維持しることの一手になるだろう。しかし、現状の企業は直近の女性の労働力ばかり見ている』というものである。これが好例だろう。

 

 本書でも、生活保護を含めた社会福祉の充実が日本社会の安定と平和をもたらすことを何重にも説いている。社会の貧困層を助ける手を怠れば、治安の悪化を引き起こし、負のスパイラルに陥るというのだ。

 

必要なことは広い視野を持つこと

 今の社会、人々同士の心が離れ、関心が低下し、さらに価値観の多様化が広がる社会では、さらに広い視野を持つことが必要だと思う。より噛み砕くと、自分の立場を中心に考えすぎず、他の人の立ち位置から物を見ることができるかどうかということだ。これが、より空間的、そして時間的に広く、大きく、長く世の中を見ることに必要だろう。

 

つまるところ、ぜひ多くの方に本書を読んでいただきたいということだ。

  

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

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