Signal

Books, music, thinking and so on.

【書評】坊っちゃん/夏目漱石

坊っちゃん (角川文庫)

坊っちゃん (角川文庫)

日本文学界の名作中の名作。

夏目漱石坊っちゃんをこの歳で初めて読んだ。

 

 夏目漱石は慶応三年(1867)に東京(当時は江戸)に生まれ、大正五年(1916)に亡くなった。漱石は帝国大学英文科を卒業後、高等師範学校(現筑波大学)で二年講師を務めたのち、愛媛県松山で尋常中学校(現愛知県立松山東高等学校)で一年教師を務める。さらに翌年、熊本の第五高等学校(現熊本大学)の教授となり、明治三十三年に文部省の留学生としてイギリスに渡った。

 

 小説「坊っちゃん」は松山で教鞭をとっていた時をベースに書かれたもので、旧制中学教師として赴任してきた若い教師である坊っちゃんが出会う、同僚の教師達、学生達との日常、事件、そして人間関係を綴った小説だ。

 

親譲りの無鉄砲で子供の時から損ばかりしている。

(本文 文頭)

 有名な冒頭から始まるストーリーは107年前に書かれた小説とは思えないほど身近で読みやすい。この冒頭の一文で読者は一気に小説世界に引き込まれる。坊っちゃんはとかくあだ名を付けるのが上手い。校長は狸、教頭は赤シャツ、その他の教師も野だいこ、大嵐とユニークだ。そして彼ら一人一人の性格も現代でも身近にいそうな、想像のしやすい人物像となっている。

 

 この小説の筆の特徴は各文が非常に簡潔に書いてあってリズミカルでテンポが早い所だ。現代小説のように多彩に比喩を使わなくてもここまで面白い小説が書けるのかと感心。長々と比喩に文字数を使わないから物語の内容が密で重厚だ。この奥行きの深さが読手に大きな満足感を与えるのだと思う。

 

 その後ある人物の周旋で街鉄の技手になった。月給は25円で、家賃は6円だ。清は玄関つきの家でなくってもしごく満足な様子であったが気の毒なことに今年の二月肺炎にかかって死んでしまった。死ぬ前日おれを呼んで坊っちゃん後生だから清が死んだら、坊っちゃんのお寺へ埋めてください。お墓の中で坊っちゃんの来るのを楽しみに待っておりますと言った。だから清の墓は小日向の養源寺にある。

(本文 文末)

 小説の最後、坊っちゃんの現在が綴られて物語が昔の事だった事が明かされる。このとき読者も物語の世界から現実に引き戻される。この手法も読後の満足感をプラスさせる。高校時代に「こころ」を読んで以来の漱石だったが、この作家が100年も読まれ続ける理由がわかった。名作中の名作だ。


次は、「三四郎」、そして「それから」を読んでみたい。

三四郎 (岩波文庫)

三四郎 (岩波文庫)